大勢の乗客を乗せて飛行するエアラインのジェット旅客機。その安全運航はパイロットはもちろん、多くの地上スタッフや航空管制官に代表される航空保安職員たちによって支えられている。その空の安全をエンジン、機体を構成する各機器の整備を通して守っている人たちが航空整備士だ。ここでは、そんな航空整備士になるためのルートや、エアライン以外の整備に関わる仕事について簡単にまとめた。航空整備士に興味のある人に、読んでほしい
※ムック「航空整備士になる本」(2019年6月26日発売)より転載
旅客機の整備士の仕事とは?どういう人が整備士に応募できるの?
航空整備士の仕事は、航空機が安全に飛行できるように機体やエンジン、装備品などの点検整備、修理を行うことだ。ランプで到着機や出発機の整備を行う機体整備(運航整備)、格納庫に入った航空機の重整備などを行う機体整備(ドック整備)、航空機から取り卸された計器やコンピューター、電子部品、エンジン、ランディングギアなどの装備品の整備を行うショップ整備に分かれており、それぞれの分野で航空機のシステムや構造などに深い専門知識と高度な整備技術が必要とされる。航空整備の現業部門の採用については、現在はANA、JALともに現業職としての採用はそれぞれの系列の航空機整備会社のみで行っており、運航会社での採用は行っていない。
LCCが軌道に乗った現在では、航空専門学校を卒業したばかりの新人を採用し、運航整備士を育成しているエアラインも増えてきている。現在毎年定期的に新人航空整備士を採用しているのは大手エアライン系列の航空機整備会社で、ANAグループは運航整備を専門に行うANAラインメンテナンステクニクスやドック整備と訓練用のシミュレーターの整備を行うANAベースメンテナンステクニクス、ANAエンジンテクニクスなど業務内容の違いにより5社が設立されて各社独自に募集を行っている。
またJALグループは、ドック、ライン、ショップに別れていた整備専門会社を統合して2009年10月に設立したJALエンジニアリングや、フルフライトシミュレーター等の訓練機器を専門に整備するJAL CAEフライトトレーニング(以前のJALシミュレータエンジニアリング)などで募集を行っている。
こうした航空機整備専門会社の応募資格は、以前は航空機の整備を学ぶ学科がある航空専門学校と大学が中心だったが、現在は航空機の整備を学んだことのない工業高等専門学校の新卒者に加え、大学・大学院の理工系学部新卒者・卒業者の採用も活発になってきた。
大手エアラインに就職して航空整備を行う技術系総合職エアラインではボーイングやエアバスといった航空機メーカーやエンジンメーカー、各種装備品メーカーなどと技術的な交渉を行ったり、整備計画や人員計画、整備方法などを確立してく技術部門のエンジニアも活躍している。
技術系のスタッフも当然のことながら機体構造やシステム、アビオニクス、航法 機器、エンジン、客室装備など、それぞれの分野でかなり深い知識が要求されるので、入社後はまず航空機整備の現場に配属されて航空整備士として経験を積んでからスタッフ部門に異動していくケ ースが多い。エアラインによっては、一等航空整備士や航空工場整備士などの国家資格や社内資格を取得してからスタッフ部門に異動するケースもある。つまり、航空整備士として働いてきた現場での経験や知識がベースとなって、技術系のスタッフ部門で活躍できるのである。
こういった技術系のジェネラリストをめざすなら、ANAのグローバルスタッフ職(技術)やJALの業務企画職(技術系)、ANAウイングスの総合職掌技術職、日本トランスオーシャン航空の総合職業務 企画系(技術系)などに応募して採用されなければならない。募集は理工系の4年制大学卒業者(卒業予定者を含む)と理工系の大学院修士課程修了者(修了予定者を含む)を対象に行われる。
大学には航空宇宙工学科や航空工学科など航空工学や流体力学などについて専門の勉強・研究を行う学科もあるが、技術系の総合職では特に学科の指定はなく、機械系や電気・電子系、情報系など幅広い理工系学部・学科の出身者が採用されている。また、大卒者対象の採用試験は自由応募なので、結果として全国各地の理工系学生が横一線で採用試験にチャレンジする狭き門となる。
総合職や業務企画職は将来の幹部候補の採用であり、技術部門から会社の経営を支えていく役割を担うため、幅広い教養とマネージメント能力、リーダーシップなどが要求される。そのため採用試験は筆記はもちろんのこと、各社ともに人物面を評価する面接がかなり重視される。
エアライン以外にも航空機整備の仕事はたくさんある
航空関係の整備・技術系の仕事はエアラインばかりではない。小型機を中心に運航している航空機使用事業会社やヘリコプター運航会社で活躍している航空整備士も多い。特に近年はドクターヘリや防災ヘリなどヘリコプターの活躍範囲が広がってきていることから、ヘリコプター整備士の採用も活発になっており、経験者を対象としたキャリア採用だけで なく、大学や専門学校の新卒者を対象に、整備士を定期採用している大手運航会社もある。
また、エアバス・ヘリコプタ ーズ・ジャパンのように、メーカー直系の会社も設立されるなど、航空整備士をめざす人にとってヘリコプターの世界は今後注目を集めそうだ。 この他、航空機を保有・運用している警察、消防、海上保安庁といった官公庁や自衛隊にも航空整備士やエンジニアが在籍している。
特に多くの航空機を運用している陸海空の自衛隊には大勢の航空機整備員が配属され、戦闘機や輸送機、哨戒機、救難機などの整備を行うことで国防の任に就いている。その採用と養成は整備要員という枠がないため、一般隊員といて入隊し、入隊後に本人の希望や適性などにより整備要員に選抜される。整備要員に選抜されると、術科学校という専門訓練機関で訓練を受けて、全国に広がる部隊に配属されていく。
航空会社への納入に向けて開発が進められているSpaceJet(旧名:MRJ)の設計・製造を行っている三菱航空機や、ボーイングやエアバスの製造分担パートナーとして事業を広げている日本の航空機メーカー、航空機の関連企業の開発や製造の部門でも、直接航空機の整備を行うわけではないが多くの技術者が働いている。
2011年にANAが世界で初めて路線就航させたボーイング787では、三菱重工業、川崎重工業、スバルの3社だけでも合計で約35%の製造を受け持ち、ジャムコは787のコクピットの内装パネルやギャレーなどを一括製造している。こういった日本企業の高い技術力が評価されたことで、炭素繊維強化プラスチックを使用した胴体や主翼ボックスの一部など、機体の重要部分の製造が委ねられるようになった。
航空機のエンジンもIHIなど優れた技術を持つ日本のメーカーがジェネラル・エレクトリック、プラット・アンド・ホイットニー、ロールスロイスといった欧米のメジャーメーカーの開発・製造パートナーとして存在感を示している。また航空機のシートでもジャムコが本格的に参入し、世界をマーケットにシェアを伸ばしてきた。こういった航空機メーカーやエンジンメーカーの研究・開発部門と製造部門では、理工系の大学や大学院、高等専門学校などを卒業した大勢のエンジニアが活躍しており、航空専門学校で航空整備や航空機の基礎を学んだ人も大勢活躍している。
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発売日:2019年06月26日
サイズ:A5判
ページ数:144
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