A320とG58バロン、そしてモーション付きの737MAXシミュレーターを設置する羽田空港本店をはじめ、HICityFighter店、セントレア店、大阪国際空港店(物販のみ)の4店舗を展開。一般の方からパイロット志望者まで幅広い客層にシミュレーター体験を提供するほか、各種飛行機グッズも販売している。
Photos by Konan Ase Text by AIRLINE
月刊エアライン2023年11月号(9月30日発売)より転載
岸田さんの接客方針はスタッフにもしっかり伝授。フレンドリーな皆さんがいつも笑顔で出迎えてくれる。
誰もが反対する中での起業
元々運送業界で働いていた岸田さんだが、若いころにパイロットになる夢を容易に諦めてしまった過去があった。30代になってそのことを後悔するようになり、「今からパイロットは無理でも、何か飛行機に関わる仕事がしたい」という思いから、シミュレーター体験施設を立ち上げた。
しかし当時こうした施設は前例がなく、パイオニアとしての苦労は相当なものだった。航空業界との接点すらない中のスタートで、周りの誰もが反対し、銀行の融資もなかなか受けられなかったという。頼れる人間がいないプレッシャーに潰されそうになりながら、「自分を信じて動き続けた」岸田さん。その姿勢は今でも変わらない。
BOEING GOODSの日本正規代理店であるほか、航空会社のオフィシャルグッズなども販売する。
娯楽から、パイロットの育成へ
アミューズメント施設として開業したが、当初から本物のパイロット、あるいはパイロットを目指す人も来店するように。
「彼らを見ていると、昔の自分を見ているみたいだったんです。もっと言えば、自分は諦めたけど、彼らは諦めずに戦っている。そういう姿がカッコよく、より一層応援したいと思いました」
そこから自分の失敗を活かし、パイロット志望者を支援するように。その縁もあり、現在では複数の航空会社の入社試験にもLUXURY FLIGHTのシミュレーターが使われている。
航空会社との付き合いが増えてきた中で、見えてきたのがパイロット候補者の「人間力」の育成という課題。
「重要なのはシミュレーターの上手い下手だけではありません。もちろん技術や技量は大事ですが、それはあくまで考え方、心の結果だと思います」
これをうまく伝えるのは非常に難しいが、開業以来の11年でたくさんのパイロット志望者の合否を見てきたノウハウを活かし、それぞれの人に合わせた方法で伝授している。今後はパイロット訓練事業を積極的に展開し、入社前に「人間力」を身につけられる環境を整えていく計画だ。
だからと言って、アミューズメントの面をおろそかにするわけではない。
「創業の魂であり、これまでのお客様がいるから今があります。自分と同じようにパイロットを諦めた方の夢を疑似空間で叶えられますし、また将来パイロットになりたいと思う子供たちが増えて欲しいという思いもあるので、これからも変わることなく続けていくつもりです」
出会いが楽しく、そして学びに
この仕事の楽しさは「出会い」にあるという岸田さん。「どんな出会いでも勉強、そして学びになります」 と話す。さらにシミュレーター体験では、お客様が100人いれば100通りの接し方がある。
「例えば専門用語を使ってはいけない人もいれば、逆に使うことで喜ぶ人もいます」
人によって異なる接客が必要なこともまた、難しい部分ではあるが楽しさのひとつだという。LUXURY FLIGHTではあえてマニュアルを作らず、一人ひとりに合わせたサービスを提供。こうして老若男女、そして初心者から上級者までが楽しめる施設となり、また未来のパイロットたちの架け橋となっているのだ。
編集後記
LUXURY FLIGHTには取材でお邪魔する機会が多いが、今回お伺いした岸田さんの理念は訪れるたびに実感する。スタッフの皆さんはいつもフレンドリーに迎えてくれ、操縦知識も豊富。月刊エアラインらしいマニアックな要望にも全力で応えてくれる。そんな皆さんだからこそ、趣味で操縦を楽しみたい人から、本格的な訓練に訪れる人まで、さまざまな人に喜んでもらえる体験を提供できるのだろう。
今回お話をうかがった方
株式会社LUXURY FLIGHT
代表取締役
岸田 拓也さん
小さいころコクピットに招き入れてもらったとき、ぎっしりと詰まった計器を見て飛行機を好きになった岸田さん。その後、自宅のPCでできるフライトシミュレーターに出会い、これをサービスとして提供して人々に喜んでもらいたいという思いから、LUXURY FLIGHTを立ち上げた。
【プライベート】
最近は古いバイクに魅了され、仲間やソロでツーリングを楽しむ。バイク好きのスタッフと一緒に出かけることも。壊れることも多いが、メンテナンスに苦しみながら楽しんでいる。
【座右の銘】
感謝
「お客様、お取引先の皆様、一緒に戦ってくれるスタッフ。ここまで来れたのは私の力ではなく、縁と運が大きかったと心から思います。ありがとうやごめんなさいと言える環境が経験値で、感謝の気持ちがなくなった瞬間、会社は衰退する。だから大切にしています」