J-AIRは、大阪伊丹空港を拠点とするリージョナルエアライン。エンブラエル社製E170型・E190型機を使用しJALグループ国内線の約3割、1日230便を運航。また「ITAMI 空の市」「航空教室」など地域振興や後進の育成にも積極的に取り組む。
Photos & Text by Takenobu Daigo
月刊エアライン2023年9月号(7月30日発売)より転載
写真撮影では「緊張しますね」と田中さん。制服姿で爽やかな笑顔をみせるも、乗務前のブリーフィングでは笑顔から一変。真剣な眼差しで乗務に備える。
キッカケは上司のひとこと
小さい頃から飛行機が好きで、飛行機にたずさわれる仕事がしたいなと考えていた田中少年。ジャンボジェットのパイロットに憧れたが、すでにJALグループではボーイング747は退役していた。しかし大学時代に学んだ社会問題で、リージョナルジェットが地方活性化の一翼を担っている事を知る。地上職ならいろんな側面から地域貢献ができるのではないかと考え、地上職としてJ-AIRに入社した。
最初に配属された部署は乗員サポート部。パイロットや客室乗務員のスケジュール管理などをする仕事に3年間従事。その後、客室乗員部業務グループに異動。主に客室乗務員の採用など、客室の間接部門としての仕事を経験。
ここでの仕事で、効率よく最善の結果を求める地上職の考えと、効率よりもお客さまに対して最善を考える客室乗務員との考えのギャップに気が付いたという。入社の経緯(気持ち)が地上職と乗務員では違う。
「客室乗務員の考え方を理解するには実際に飛ばないと分からないのか?」という、ある日上司にこぼした言葉。「なら飛んでみれば?」と答えた上司の一言がキッカケとなり、J-AIR社内でも珍しい地上職採用から客室乗務員という異色の経歴を歩むことになる。
迷いは無かったという田中さん。2022年10月から客室乗務員としての訓練を開始し、2023年1月にチェックアウト。最初のフライトは新潟往復。「どこへ飛んだか分からないくらいドキドキしました」と当時をふりかえる。OJT期間を経て独り立ちすると責任はすべて自分にのしかかる。チェックアウト後の最初のフライトでその責任の重さを強く実感したという。
もっと優雅だと思っていた。「地上職時代には見えていなかった事がたくさん見えてきました。お客さま降機後の客室清掃、次のフライトの準備、昼食を取る時間すら無い事もあり、想像以上に大変、本当に戦場だと感じました」。しかし、直接お客さまとふれあう仕事は地上職時代には経験できなかったので、今は毎日が新鮮だという。
「小型機で2名乗務のため、リピーターのお客さまに顔を覚えて貰えることがとても嬉しくやりがいを感じる。これもJ-AIRの飛行機だからこそ」
乗務の無い日はスーツ姿でデスクワークに取り組む。
客室乗務員に性別は関係ない
J-AIRには現在397名(7月1日時点)の客室乗務員が在籍。そのうち男性客室乗務員は5名しかいない。かつては客室乗務員の採用も担当した田中さん。就職説明会で、客室乗務員の仕事を男の子にすすめても「僕、男なんで」と拒否される事が少なくなかったという。まだまだ世間のイメージは“客室乗務員=女性”。しかし「客室乗務員の仕事のやりがいに性別は関係無いんです」と断言する。
客室乗務員の仕事に男女は関係ない。イメージだけで一つのチャンスを失うのはもったいない。男女関係なくチャレンジして欲しいと語る。
地上職から客室乗務員になる。こんな珍しい経験をしたからこそできる事があるはず。そう語る田中さんに今後の目標を聞いてみた。「地上職で入社して今は客室乗務員として飛んでいる。この経験により他の人にはない目線をもっていると思うので、地上に戻ったときは現場の経験を忘れず、地上職、間接部門、空の現場、その架け橋になれるように経験をつみたい。ただ、今は客室乗務員のプロとして業務に専念したいです」
編集後記
ここ日本で客室乗務員というと、まだまだ「女性の仕事」のように捉える向きも少なくないようだ。しかし田中さんが言う通り、その仕事を遂行するうえで本来「性別は関係ない」のである。J-AIRの機内で田中さんの仕事を目にした学生が「僕もやってみたい!」と憧れ、その門を叩く未来が訪れることもあり得るだろう。また一方では地上職と乗務員という、ふたつの世界を知る目、経験、想いも、新しいJ-AIRのフライトを創りだしていくはずだ。かくも希望に満ちあふれた、田中さんの笑顔が印象的である。
今回お話をうかがった方
株式会社ジェイエア
客室乗員部 客室乗務員
田中 佑樹さん
1994年7月生まれ。小さい頃から飛行機が好きで、いつかはパイロットになりたいと夢見る。大学生活を経て、もっといろんな事を経験してみたいという思いがつのり、2018年地上職としてJ-AIRへ入社。
【プライベート】
「クルマやバイクが好きですが、なかでもステイ先でたまたま立ち寄った楽器店で購入した“カリンバ”(アフリカの民族楽器)にハマっています」
【座右の銘】
郷に入っては郷に従え
「今は客室乗務員というこれまでと全く違う職種です。地上職時代とは異なる考え方があることを痛感しています。今後もいろんな仕事を経験すると思いますが、まずは輪の中に入って理解する事が最初の一歩として大事だと考えています」