ボーイングの安全/品質要求に見合う製品ができあがるように、サプライヤーにおける仕事のプロセスを見守る、サプライヤークオリティ。
今回ご登場いただくのは、777政府専用機のギャレーや737 MAXのWHCU(コクピットの窓の曇りを防止する装置)のソフトウェア初回リリース検査にも携わってきたボーイング ジャパンの佐藤美由紀さん。
品質保証という役割を通して、安全に空を飛ばせる製品の実現に注力している。
photographs by Fukazawa Akira
月刊エアライン2020年11月号(9月30日発売)より転載
ジャムコの他にも国内サプライヤー3社を担当している佐藤さん。ジャムコ内のボーイングオフィスには佐藤さんのほか、資材調達を担当するスタッフなど数名が駐在しているが、現在はCOVID‐19対策として在宅での勤務となっている
Q:仕事内容と1日のスケジュールを教えてください
サプライヤークオリティは、ボーイングの航空機に必要な資材や部品を製造しているサプライヤーさんの品質保証活動を監視する役目があります。この仕事の究極の目的というのは、安全に空を飛べる製品を作っていただくということです。それにはできあがったものを検査するだけでは不十分で、例えば監査というかたちで契約から出荷までのプロセスがきちんとルール化されているかどうか、それに従い正しい製品が納められる仕組みが機能しているかどうかという観点から様々な点に目を配っています。
入社以来、ジャムコさんをメインで担当しているため、ジャムコ社内に構えたボーイングオフィスに駐在しています。※ 1日のルーティーンといったものは特段なく、監査や検査のスケジュールにあわせてフレキシブルに対応します。また、担当サプライヤーの製品に問題が起った場合、シアトルの工場とサプライヤーさんとのやりとりをフォローアップする役割もあります。
※現在は感染症対策のため、必要時以外在宅勤務
Q:この仕事を志したきっかけはなんですか?
小学生の頃の夢が天文学者で、高校生の頃には宇宙開発の仕事がしたいと思うようになりました。大学院卒業後は一般企業において技術系の職種でNASDAに関わる仕事をしていたのですが、ほどなくして品質保証を担当するように。
機械や電気のエンジニアがいるように、品質保証の仕事には「クオリティ・エンジニア」と呼ばれるプロフェッショナルがいます。私自身、品質保証の部署に配属されるまで、こういった仕事があることを知りませんでした。航空・宇宙・防衛の仕事を志す時に、こうした職種の存在を知っていると選択肢が広がるかもしれませんね。
その後、航空や防衛の分野においても品質保証の仕事を経験。前々職でボーイングと仕事をした際、問題が起こった時にとても親身に励ましてもらったことがあり、すばらしい人たちがいるボーイングで自分も働きたいと入社を志しました。
ジャムコ工場内における検査の様子。要求事項を目視確認し、図面通りに製造されているかを丹念にチェックしていく
Q:日頃どういったことを心がけて業務に取り組んでいますか?
サプライヤーの皆さんは、私の提案に対して真剣に対応してくださいます。でもそれは顧客のアドバイスだからであって、決して私の言っていることが100%有用だからではないということを常に自戒しています。
自分の発言が彼らの利益や技術の向上に結び付くことだったらいいのですが、不勉強で適当でないことをポロッと言ってしまったがために、結果的にサプライヤーさんが不利益を被ることになっては責任重大です。他人様を指導する以上、よほど勉強しなければならないと常に意識しています。
また、品質保証に携わる人間というのは、周りの人に心を開いてもらってなんぼというところがあります。「今、こういうことが心配なんです」とか「こういうことが起こっているんですが、後々悪いことが起きるんじゃないでしょうか」など大事になる前に、まだハッキリしない時点で不良の芽を摘むことができる環境というのはとても大切なんです。
そういう意味では、話しやすい人、なんでも話せるような人でいよう、というのは考えるようにしています。
COVID‐19以前は8時から16時30分までのオフィス勤務だった。往復4時間の通勤時間はTOEICや資格の勉強時間として有効活用。持ち運びしやすいよう20ページずつバラバラに解体した辞書で単語を覚えたという驚きのエピソードも
Q:今後の目標を教えてください
誰にも負けない、私でなければできない強みを見つけていきたいと思っています。
日々勉強しながら歳を重ね、経験を積んで…それでもやっぱり完璧になること、完成することはないんだと思います。ですから学ぶ姿勢を持ち続け、さらに今まで学んだことを社会に還元しながら航空・宇宙・防衛の品質保証を極めていきたいと考えています。
Q:航空業界を目指す学生さんへ
新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響で、航空業界での採用が減っていくことを心配している方が多いんじゃないかと思います。しかし、この業界は世界に不可欠です。必ず復活するので、諦めないでください。
私も志してすぐにボーイングに入社できたわけではありません。七夕の短冊に「ボーイングに入りたい」と書いたこともあります。最後は想いの強さが勝つのです。今ダメだからといってずっとダメだと考えてないでください。遠回りするかもしれないけれど、小さな兆しを大切にして諦めずに進めば、転機は必ずやってくるものです。
☆Pick Up 佐藤さんのお気に入りボーインググッズ☆
「わたし自身がボーイングのファンなんですよ」。
4発エンジンがデザインされている747のブレスレットや特徴的な主翼を再現した787のネックレス、100周年記念のスカーフなど、お気に入りのボーインググッズでモチベーションアップ。
年に数回開催される大規模な社内ミーティングで着用するのも楽しみだという。
編集後記
一般的には馴染みの薄い、航空・宇宙・防衛の品質保証というお仕事をわかりやすく説明してくれた佐藤さん。安全な製品の製造を見守るためにはサプライヤーとの信頼関係も大切ですが、取材中に垣間見えたジャムコの皆さんとの和やかなやりとりの中に、佐藤さんの日頃の仕事ぶりと人柄が窺えました。
「コロナのように不可抗力的なもののほかにも、自分自身がうまくいかない時、頑張れない時もあると思います。けれども、転機は必ずやってくるものです」。
ボーイングを目指して努力を重ね、それを実現させた佐藤さんだからこその言葉に、重みと力強さを感じました。
今回お話をうかがった方
ボーイング ジャパン株式会社
リジョナルオペレーション サプライヤークオリティ
佐藤 美由紀さん
電子工学の分野で修士号を取得。その後就職した企業で当時の宇宙開発事業団(NASDA)関連の仕事を担当したことを契機に、航空・宇宙・防衛関係の品質保証に従事する。数社経験の後、2013年にボーイング ジャパン入社。
【リフレッシュ方法】
航空に興味を持つ少年・少女の集まりである「神奈川航空少年団」の活動に参加し、イベントのサポートや航空機製造についてのプレゼンテーションなどに携わっています。目を輝かせて「こうやって飛行機を作っているんだ」と興味を示してくれる子供たちから元気をもらっています。
【座右の銘】
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
サプライヤーの皆さんはいつも丁寧に接してくださいますが、それは私個人の知識や人格ではなくタイトルに依拠していることを忘れてはなりません。私の不用意な発言で現場に不利益を出さないよう、しっかりと勉強しなければならないと、この仕事に就いてすぐに心に留めました。学べば学ぶほど、もっと謙虚になっていくべきだと感じています。