今回ご登場いただくのは、JAXA航空技術部門の研究員である飯島博士。
電動航空機をはじめとする革新的な航空機の開発研究に携わっている。新しい空の使い方を考える新分野開拓研究にも意欲的にアプローチ。その根底にあるのは「飛行機を安全に飛ばしたい」という志だ。
photographs by Fukazawa Akira
月刊エアライン2019年7月号(5月30日発売)より転載
調布航空宇宙センターに設置されている飛行シミュレーター。実験ではパイロットが操縦を担当。飯島さんは副操縦士席で試験の指示や経過チェックなどを行なう
Q:仕事内容と1日のスケジュールを教えてください
私はJAXAの調布航空宇宙センター飛行場分室で、今までにない飛行機を開発したり、飛行機を安全に飛ばすための研究をしています。具体的には乱気流情報をパイロットに提供する技術や、電動航空機の開発、さらには新しい空の使い方を考える新分野開拓研究などに携わっています。
1日のスケジュールとしては、午前中にコンセプト提案や情報収集などのクリエイティブな活動を行ない、午後は会議の出席や実験データのまとめに当てることが多いですね。終日飛行試験やシミュレーター試験などを行なう日もあり、業務にあわせて柔軟に対応しています。
Q:この仕事を志したきっかけはなんですか?
小学生の頃に大きな流れ星を目撃したことがきっかけで宇宙に魅せられました。はじめは宇宙飛行士や天文学者に憧れていましたが、大学で航空工学を学ぶうちに航空機を安全かつ有効に飛ばすヒューマンファクタの分野に興味を持つようになり、研究者の道を志しました。
幼少期には衝撃的な航空機事故が発生しており、今思えば、その時に受けた衝撃が「航空機を安全に飛ばしたい」という思いを抱く契機になったのかもしれません。
Q:日頃どういったことを心がけて業務に取り組んでいますか?
「専門性を高めること」と、「研究者・技術者目線に凝り固まらないこと」を心がけています。
前者は研究者として当然必要なスキルですが、そればかりでは視野が狭まり、アイデアも偏ったものになりがちです。研究者ではなくあえて生活者の視点で柔軟に思考してみることも大切な要素だと考えています。そうすることで研究者としてはなかなか気づけない新規性や独自性のあるアイデアが生まれるのです。
パイロットも自分の視野を狭い状態で固定しないよう、常に俯瞰して状況を把握するように意識しているといいます。これをコクピットの後方に備え付けられているジャンプシートにちなんでメンタル・ジャンプシートと呼ぶようです。
一見相反するフォーカス(集中)とクリエイティブ(発散)の両面をバランスよく使いこなすことで、より革新的な研究が実現すると考えています。
ドイツ航空宇宙センター在外研究員として渡独した際に「自分で自分の可能性に線を引かない」大切さに気付く。以降、その言葉は人生のモットーとなった
Q:今後の目標を教えてください
スマートフライトのパイロットインターフェース設計や、空飛ぶクルマの課題解決に向けた電動航空機を安全に飛ばすための故障検出・回復機能の検討などが目下の業務です。
スマートフライトとは、機上や地上の情報を統合処理し、燃料や気象的に最適なルートをパイロットに提案する「空の乗り換え案内」のようなシステムです。
その他にも新しい空の使い方を考える新分野開拓研究にも力を入れていきたいと考えています。そのために様々な職種やライフスタイルの方々の意見を聞いたり、枠に捉われない大きな視点でエネルギーを考察したりしながら、より革新的な新しい分野の研究をしていきたいですね。
Q:航空業界を目指す学生さんへ
「好きこそものの上手なれ」が一番。飛行機や空が好きな心を大切に、志を高く持って夢を追求してもらいたいですね。研究者を目指すならば、新規性や独自性も重要になるので、ぜひ読書やワークショップで多様な視点を身につけてください。
さらに、人とは違う自分の武器を見つけることも大切です。私の武器は「わくわくする心を持ち続けること」。うまくいかない時でも心をドライブしながら、わくわくを胸に研究に打ち込んでいます。
目標を達成するためには、これらの点とともに、「自分で自分の可能性に線を引かない」ことが大切だと実感しています。
☆Pick Up 飯島さんの相棒☆
写真撮影も趣味の飯島さん。キヤノンのPowerShot G9 Xは公私ともに欠かせない相棒。
今回お話をうかがった方
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
航空技術部門 次世代航空イノベーションハブ エミッションフリー航空機技術チーム
主任研究開発員(工学博士)
飯島 朋子さん
1998年に当時の科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA)に入所。コクピット設計評価・CRMなどの航空ヒューマンファクタや、電動航空機のパイロットインターフェース設計、飛行試験技術の開発研究などに従事。
【リフレッシュ方法】
小型機の操縦やアクロバット飛行など自家用機のライセンスを活かした趣味から、短歌、美術館巡り、登山、旅行、ライブ、バイオリン演奏など多岐にわたる趣味をアクティブに楽しむ。
【座右の銘】
To invent an airplane is nothing, to build one is something, to fly is everything.
飛行機を考えるのはさほど難しいことではない。けれども、それをつくるのは甚はなはだ厄介だ。そして、それを飛ばすのはもっと大変だ。